外科矯正 顎変形症の治療

外科矯正の必要な顎変形症について

外科矯正の必要な不正咬合には、歯のでこぼこ、出っ歯、受け口、八重歯、すきっ歯のほか上下顎(あご)の骨の不調和に起因しておこるものがあります。それらを正しく治す方法のひとつが外科矯正治療です。

 

外科矯正が適応になる顎変形症は、大きな受け口や小さな顎、顔面の非対称(あごの変形による)などの上下顎の成長の不調和に、歯の位置の異常が加わることによって重度の咬み合わせの異常と顔面の変形を呈しており、顎の手術を用いた外科矯正治療が必要となります。

 

咬み合わせが悪い・顎変形症であるということは、肉体的なものばかりでなく、しばしば精神的に負担となります。具体的な心身への影響としましては、むし歯・歯槽膿漏・外傷および歯根吸収の誘因となる、食物をよく咬むことが出来ず消化器官に負担がかかる、正しく発音しにくいことなどが考えられます。また特に顎変形症のかたは、見た目を意識した場合社交性が乏しくなることがあります。


外科矯正治療の目的

外科矯正を必要とする顎変形症治療の主な目的は、上下の顎の不調和と咬み合わせを治すことです。

 

外科的矯正治療を行なうことにより、咬み合せが良好となり食物がよく咬めるようになる、口もとや顔の形が改善されるといった効果が見込まれます。

 

また、虫歯や歯槽膿漏(歯周病)の予防や上下顎骨の不正(顎変形症)が改善されることにより補綴治療にも効果が見込まれます。


外科矯正による顎変形症の治療 〜保険が利く場合もございます〜

外科矯正を行う、顎変形症の治療(顎矯正治療)は、顎切り手術前に行う術前矯正治療、顎切り手術後に行う術後矯正治療、良好な咬合が得られた後にそれを保つために行う保定治療に大きく分かれます。

 

治療は、検査、診断ののち治療計画を作成し、それにのっとり行います。

 

外科矯正を行う顎変形症に対する手術、矯正歯科治療には、健康保険が適応されます。

 

外科矯正前は、外科前に術前矯正治療をおこない、顎切り手術の前に矯正歯科治療により歯を移動させ、上下顎それぞれの歯ならびを整え、手術をした時に上と下の歯がきちんと咬む状態にします。

 

その後、顎を移動させる外科的な手術をします。一般的に術前矯正治療は数か月~2年以上を要します。

 

顎変形症の外科手術が終わったあとも、外科手術後の顎の位置の変化に対応し、上下の歯を緊密に咬み合わせるため、通常1年程の術後矯正治療が必要となります。

 

外科矯正歯科治療が終わり矯正装置をはずした後、きれいに治った歯ならびをその位置に落ち着かせる保定治療が必要となります。装置の使用期間は年齢、治療の経過・内容によっても違いますが、通常、顎変形症の場合は2~3年を必要とします。

 

(可及的すみやかに術前矯正治療を終えることで治療期間全体の短縮を図っています。そのためには、矯正医・外科医との綿密な連携、患者さんの協力が不可欠です。)

 

※術前矯正治療期間を短くする治療方法(サージェリーファースト)をとる事も可能です。

 

サージェリーファースト: 顎矯正手術を矯正歯科治療より先に行う治療方法です。術前矯正治療期間を最小限に抑えるため、症例によっては全ての治療が終了するまでの期間が短くなることがあります。また、治療開始後すぐに手術を行うため早期に見た目が改善します。この治療は健康保険が不適用のため矯正治療費、手術費とも自由診療となっています。

 


外科矯正を行う顎変形症治療のメリット・デメリット

外科矯正を行う顎変形症で初めてご相談にいらした時、顎矯正治療の良い面と可能性のあるリスク面の両面をお話して、もう一度じっくりと治療について考えていただきます。無理に治療をすすめるような事は絶対にございません。

 

外科矯正を行う顎変形症の治療を受けることで患者さんが不利益を受ける可能性が考えられる場合には、予測される治療結果などを含めなぜ治療をやめた方が良いか理由を説明し、治療を行わないことを進言させていただく場合がございます。また矯正歯科治療の代替法や解決方法を提案させていただきます。

 


外科矯正を行う顎変形症の治療に伴う偶発症とその頻度

外科矯正を行う顎変形症の治療をされる場合、矯正治療に加えて外科治療も行うため、怖い感じがしてしまうと思います。しっかりと顎変形症の治療にともなう偶発症のリスクを知ることで、未知の恐怖は取り除けると思います。リスクとメリットを比較して有益と考えられる場合、顎変形症の治療に入られるということも一つの方法かと思います。

 

まず、考えられるリスクに、口の中に入れた装置により歯肉の発赤や腫脹、粘膜の外傷性の炎症や潰瘍が出来ることがあります。

 

また、口腔外に装着された装置により、皮膚荒れや発赤が出来ることがあります。

 

 歯の移動を行うと、歯の根の部分が短くなる歯根吸収が起こることがあります。これは、根の先が丸くなるといった軽度のものを含めると、約7割に認められるとされますが、根の3分の1以上が吸収するといった重度なものは、0.5 %以下と報告されています(重度のものは非常に稀です。院長の患者さんで発症した例は今までのところございません。しかし、大学病院等で相談を受けたり、処置を行ったり対応したケースはあります)。

 

 歯磨きが悪いと歯面の白濁やむし歯、歯ぐきの炎症(歯周病)が起こります。まれに装置をはずすときに歯の表面のエナメル質に剥離が認められることがあります。

 

 顎変形症の治療にはこれら偶発症について熟知した医師が当たっており、偶発症が生じた際には速やかに対処を行ないます。偶発症により必要となった医療行為に対しての当院からの補償はございません。

 治療にはご本人の保険を適用させていただくことになりますのでご了承ください。(注:偶発症は通常通りに検査や治療が行なわれていた場合でも、ある一定の頻度で起こりえることであり、医療過誤との同意語ではございません)

 


外科矯正を行う顎変形症治療の途中中止について

外科矯正を行う顎矯正治療を受けることを希望されても、矯正歯科医の判断により治療を中止したり、中断・延期したりする場合があります。

 

 具体的には、矯正装置の材料にアレルギーが認められ装置を使用できない場合、歯磨きがうまく出来ず口腔衛生状態が悪く治療開始後、むし歯、歯周病を誘発する恐れがあると判断した場合、全身に矯正歯科治療に影響を及ぼす疾患のある場合、前述の偶発症のため治療を継続するとかえってあなたの今後の健康を阻害する可能性がある場合などが考えられます。

 

 外科矯正を行う顎変形症の治療が不成功となった場合、例えば歯が動かなかった場合や歯根が吸収し抜歯が必要となった場合は人工歯根(インプラント)、ブリッジ、義歯などの歯科治療が代替の治療法として考えられます。

 

 むし歯や歯の表面のエナメル質が剥離した場合、その歯の修復治療が必要となります。また、保定治療中後戻りが生じた場合、再度マルチブラケット装置による治療が必要となる場合があります。

 

 歯科矯正治療が行われている途中で顎変形症の手術をしない選択をされた場合には、咬み合わせがかえって悪くなります(特に歯を抜歯して治療を行った場合、問題が大きくなります)。また、手術を行わない歯科矯正治療は自由診療となるため、その時点までの治療の健康保険負担分をお支払いいただくとともに、その後の歯科矯正治療は全額自己負担となります。